2001.4.7 外房版に掲載

 

 『障碍がある人も ない人も、共に支え合う「仲間」になって』

 最近「福祉」を学ぶ人が増えているが、真の意味での福祉とは何なのか。
 「ある大学の福祉学科の教授に、先日、『心身の不自由な友達がいますか』と尋ねたら、いない、という『車椅子を押したことはありますか?』と質問したら、その答えもNO。これでいいのか、と思いました」。市原ウィズエブリワンの倉田知典会長(31歳)は、そう疑問を投げかける。
 エブリワンはボランティアではなく、障碍(しょうがい)を持つ人と持たない人という枠を超えた継続的な楽しい「仲間」づくりのグループ。福祉等に関する問題点を社会を巻き込みながらみんなで考え行動する。
 会では、障害でなく敢えて障碍という文字を使っているが、それは「害」に「邪魔なもの」という意味があるから。「碍」は「妨げ」の意。「しょうがい」は本人にとって「妨げ」にはなるが、他人を「害」していない、だから「障碍者」なのだ。表記に こだわるのは、障碍もその人のひとつの個性として認め、互いに尊重しあい、友達として楽しみ支え合おう、という考えが背景にあるから。


 今年の6月で発足10周年を迎える市原ウィズエブリワンは、現在会員数140名(うち健常者7割)。月1回の定例会では、ショッピング、料理づくり、食事会から、小旅行、宿泊キャンプといったレジャーの他、ハンディキャップ体験や関係機関への提案等も実施。これまで市原市中心に、JR駅の車椅子対応エスカレーター設置、歩道の段差解消および点字ブロック改修、送迎サービス事業の設置など、数多くの成果をあげている。
 目下、目標のひとつとしているのは、輪を広げていくこと。手始めに、白子町在住の深沢崇さん(25歳)と睦沢町の内山瑞絵さん(24歳)が中心となって外房地域で奮闘中だ。
 「エブリワンで楽しませてもらっているし、学ばせてもらっている」と語る帝京平成大学福祉情報学科の深沢さん。「障碍者というだけで偏見を持つ人がいるけれど、それは障碍者と触れ合う機会があまりないからですよね。単純に障碍者と一括りにするけれど、それぞれに個性を持ち、前向きにがんばって尊敬できる人は多いのです。第一、健常者とて、いつ事故や病気、高齢等で障碍を持つようになるかわからない。それを『知る』きっかけを与えてくれるのがエブリワンです。ボランティア活動に参加したこともありますが、その場限りの手助けにすぎないような気がしました。対等で継続的な心のつながりを大切にするエブリワンとの違いを感じます。エブリワンが広がっていくことで、福祉に対する考え方など世の中全体が少しずつ変わっていくと信じたいのです」。
 また、最近まで特別養護老人ホームに勤務していた内山さんは、「エブリワンによって私は成長した」と、自分磨きのためにも意欲を燃やす。幼い頃、祖母が左半身不自由になった時「ただショックだけで何もしてあげられなかった」という経験を持つ。「介添えする祖父の姿を通し、自分も何かしたい」と介護福祉士の資格を取得。仕事でドイツとスウェーデンを訪れたこともある。その際、施設に入所している人々がイキイキと生活し、周囲が障碍者を自然に受け入れる実状を目の当たりにし、「いかに日本の福祉は健常者優先か」ということを実感した。
 ふたりとも、倉田さんの人柄にひかれて入会した。会の発起人であり、自らも重度肢体不自由の倉田さんは、各地での講演活動も積極的に行い、足でパソコンを操作して描くCG画は各展覧会で何度か入賞している。深沢さん、内山さんは「何事も『できない』と言ったらそれで終わり。『できない』ではなく、『できる』分野をがんばっていくことが大切だと、倉田さんに会って思えるようになった」と口を揃える。「僕はマイナス面を見ないようにしているんです。たとえ手足が不自由でも、僕にはできることがたくさんある。支えて下さる全ての人々に感謝したい」。
 特にふたりが感銘した倉田さんの言葉は、「『学業』よりも『行学(ぎょうがく)』の実践」。生きた福祉を学ぶには実際に触れ合って、体験を通して心を通じ合うことが必要ということだ。例えばエレベーターにしても、バリアフリーといいながら、実際に使うとなると障碍者には不便な点が多いという。これは障碍者不在のまま健常者の視点でつくっているからに他ならない。
 倉田さんは、「不自由な人を積極的に福祉施策等へ参加させて欲しい」と話す。それは福祉教育を学ぶ場においても同様。意見交換をするなかで、みんなの役に立ちたい、主に福祉作業所だけが障碍者に与えられた仕事ではないのだから、という思いがある。
 10年の活動を通して倉田さんがわかったことは、「完璧なバリアフリーは不可能」ということである。それは、人それぞれ障碍が違うから。障碍者にも『甘え』というバリアがある。だからこそ、みんなが心から仲間になることが大事なのだという。
 「仲間だったら自然に支え合える。『お互い様』が積み重なって、いい社会ができていく」。短所(バリア)をなくすことを考えるより、互いの長所を見続けることが、真に人として尊重しあうことであり、『調和』への近道、と倉田さんは言う。
 市原ウィズエブリワンのテーマはこの4月、「心のバリアフリー」から『心のハーモニー』へと変わった。 (富)